ファン小説な話。 その2【魔法少女うしるん ~ウルシオールの願い・前編~】
「みんなー、うしるだよー☆」
「今日は、ヒダマルさんがファン小説を書いてくれたのっ☆」
「ジャンルは『ハイテンション魔法少女バトルコメディ』だよっ☆」
「刮目して見てねっ☆」
その①
「アンタ、朝っぱらから一人でナニやってんの……?」
虚空に向かって渾身のキメ顔を送る幼馴染へ、心から面倒くさそうに声をかける少女がひとり。
彼女こそは、ブログ『元IT土方の供述』の助手第一号・風子ちゃん。お花の髪留めでツインテールを縛った、身長155cmの17歳ちゃんです。
「馬鹿やってないで登校するわよ! 私は幼馴染のアンタの中身が実は三十路近いおっさんで元IT土方だけど今は魔法少女として活躍してるってことは知らない設定なんだから!」
「いきなり世界観を打ち破ってきた!?」
「しかも今回は、ヒダマルさんのファン小説が舞台だから……。アイツが登場する前に日常を死守しないと、絶対ろくでもないことになるのよ……!」
「メタい説明台詞を隠そうともしないでござるな……」
小鳥がちゅんちゅん鳴いてる平日の朝。
ジト目で周囲を見渡す風子ちゃんと、誰もが見惚れる〇の子・漆うしる(見た目はJK、頭脳は変態)さんが、なかよく登校中なのです。
あ、みなさま、こんにちは。
お送りするのはヒダマルです。ここは『元IT土方の供述』じゃなくて、『ヒダマルのアニメ日記。』ですよ。
久々にファン小説書いちゃったのです。設定は『魔法少女うしるん』↓をお借りしています。
その②
と、そこへ。
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり!
見事なドリフトを魅せつつ角を曲がる、高級リムジンが現れた!
約一名のみを器用に跳ね飛ばして停車した!
「大変です風子さん!」
「ユキがたった今やらかしてくれたからなぁっ!?」
リムジンから降り立ったお嬢様・ユキさんへ、出会い頭のツッコミをかます風子ちゃん。
彼女は暖色系でまとめた上品な服装を着こなすお嬢様ですが、裏では私利私欲のために暗躍する最強の魔法少女なのですよ。要はラスボスです。
この顔にピンときたら、110番せずに全力ダッシュで逃げるが吉でしょう。日本警察じゃ対応できませんので。
トリプルアクセル×7を決めながら飛んでいった漆さんはというと、象形文字みたいなポーズで塀にめり込んでいました。
「大丈夫かうしる!」
「この程度……。IT土方時代のダメージと比べれば、屁でもないでござるよ……」
「チッ」
「舌打ち!? 人身事故起こしておいてそれはないでござるユキさん!」
「事故? そのような事実はありません」
「いいや、読者さんは見てたもんね! 事故の瞬間は衆目の元にさらされちゃって
「故意です」
「確信犯!?」
壁から脱出しつつ、漫才を繰り広げる漆さんとユキさん。隣では、風子ちゃんがやれやれ系なため息をついています。苦労人です。
「相変わらずね、アンタたちは……」
朝日を反射して黒光りするリムジンからは、もう一人のお嬢様が現れました。彼女の名前はシャルロッテ、通称シャルちゃん。
漆うしるさんのサブブログ『シャルの甘美なる日々』↓にて、グルメレポを担当しているロリっ子ちゃんです。
『魔法少女うしるん』の設定ではユキさんの上司として君臨している一方、実は彼女に操られているという残念な女の子です。
「ちょっと、そこのあなた」
誰かに声をかけるユキさん。
「だから。あなた?」
はて、この場には漆さん、風子ちゃん、ユキさん、シャルちゃんしかいませんが。
あ、リムジン運転手の執事さんに話しかけて
「聞こえてますの、ヒダマルさん?」
うぉい。
ヒダマルですかい。
ユキさん、小説内で地の文に話しかけないでもらえますか。
「シャルちゃんや風子ちゃんをからかっていいのは私だけですよ……?」
いや、でもホラ。
小説を語るにあたっての役割が
「それに、前に宣言したこだまなおやさんのファンアートだってまだ全く手を付けてないと聞きましたが? うしるさんなんかのファン小説を書いてる場合ですか?」
どこからそれを。
ユキさん、どういう情報網持って
「そもそも、いつになったらシャルちゃんのファンアートを描くのですか? うしるさんはともかく、間が空き過ぎではないかしら?」
や、絵を描くのもなかなか大変だしさ、ニートにだって事情ってもんが
「私の時みたいに、中途半端な結果に終わったら承知しませんからね……?」
もちろん善処させていただく所存でありま
「ところで、誰が私利私欲のために暗躍するラスボスですって……?」
…………ごくり。
(死を予感した音)
その③
「さて。穀潰しに釘を刺したところで本題ですが」
小説における創造主を超えて場を仕切るユキさん。
「最近、このあたりで軽犯罪を働く成人男性が目撃される報告が相次いでいます。その件について、日本魔法少女連盟からの特命を受けたので、みなさまにご相談をと思いまして……」
「まさかアンタ……」
「自主すれば罪は軽くなるって聞くわよ……」
「風子ちゃんシャルちゃん? どうして何も聞かないうちにこっちを見るのかな? 拙者の信頼は基本、地の底にあるのかな?」
「日頃の行い」という言葉を痛感しますね。
「漆の振り見て我が振りなおせ」ですね。
「目撃情報を統合すると……、」
「犯人は、スーツ姿でメガネをかけ黄色いヘルメットを装備していたそうです」
「やっぱアンタじゃないのよ!」
「何故にっ!?」
「流石に言い逃れはできないわね……」
「冤罪でござるっ!」
「社会的に死ぬか今すぐ死刑になるかくらいは選ばせてあげますよ……?」
「それでもボクはやってなーいっ!」
冬の日本海みたいな視線を向けられる漆うしる。
「そもそもうしるきゅん、JK魔法少女に就任してからあの姿に戻ったことないし! 目撃情報とかあり得ないし!」
「まあ……、確かに」
「好きであんな姿になるなんて正気の沙汰じゃないわ!」
「犯罪を犯すのに好都合だとしても、容姿醜悪なガリガリ三十路に逆戻りするとは考えづらいですね……」
「急なマジレスやめて!? うしるきゅんのライフはゼロなの!」
その④
「まあ、うしるさんを社会的に陥れるのはまたの機会にして」
「いつか陥れられるのは確定なの……?」
「犯人の目星はついています。それは……、《ウルシオール》」
「ウルシオール? 漆に入ってる成分のこと?」
「流石は風子さん、博識です……。けれど、この場合は『魔法少女の心の闇から出現した生霊』のことを指します。欲望のままに行動し、やがて満足することにより成仏していく存在です」
「そ、そのくらいなら私も知ってるわ! 魔道具の研究に使われる魔法生物の一種よね!?」
「自分も良いカッコつけたくて足りないおつむを絞るシャルちゃん、最高です……」
「べっ! ばっ! べつにそんなんじゃないわよ!」
「シャル? アンタが喋るとユキがややこしくなるからちょっと黙ってようか。ユキはよだれを拭きなさい」
「こほん。ここからが肝心ですが、その《ウルシオール》……。シャルちゃんの言う通り、魔道具の研究材料として重宝される存在なのです。元になった魔法少女の、心の闇の深さに応じて価値が変動しますが、うしるさんなら……」
漆うしるに視線を注ぐうしるガールズ。
「…………まぁ、質は特上でござろうな……。拙者、伊達に地獄のIT土方時代を送ってないでござるし……。あっ、「伊達にあの世は見てねぇぜっ☆」」
「今時だれも知らないネタを空元気で放り込むあたり、三十路の哀愁を感じるわね……」
「も、もう少し優しく接してあげようかしら……」
「うしるさん、もしも人生に絶望したら私に言ってくださいね? 苦しまずに逝かせてあげますから……」
「優しさと切なさと心強さと!?」
うしるさん、ヒダマルももうすぐ三十路だ。
私たちは仲間だ。
その⑤
「ということで、これから皆さんでウルシオールを捕獲しに行きましょう。願いを達成し終え、満足して消滅する前に捕らえなければいけません」
「でも、私たち学校があるし……」
「それなら私がなんとかしておきます」
「そうね。ユキの認識阻害魔法なら、そんなのお茶の子さいさ
「お金の力で」
「世知辛いな!?」
姦しく駄弁るうしるガールズの隣で、漆さんは考え込むご様子。
「拙者の分身なら、カレーを食べたいとかサイクリングしたいとかの欲望を叶えて、無銭飲食なんかしてそうだけど……。今どこに居るかは分かってるでござるか、ユキさん?」
「問題はそこです。IT土方当時のうしるさんの精神状態を解明しない限り、ウルシオールがどこに出現するかは判明しないのですよね……。けれど、解決方法は用意してあります」
「おお、流石はユキさん! メンバーイチのしっかり者!」
「うしるさんを強制的に当時の精神状態へ追い込んで、情報を吐かせるのです……(にっこり)」
「バッドエンドルートしか見えないっ!!」
にこにこ笑顔を顔面に貼り付け、これから起こす惨劇への楽しみを隠せないユキさん。
もう付いていけないとばかりに瞳の光をなくす風子ちゃんとシャルちゃん。
「さぁ、これから私の時空間魔法で作り出した『メンタルとタイムのルーム』に入って、とことんシバき倒してあげますからね……? 覚悟はよろしいですか……?」
「どっかで聞いたことあるヤツ!? いやあぁぁ!! あの頃の自分とフュージョンの修行するのはいやあああぁぁぁぁ!!」
ユキさんに首根っこをつかまれて「ああぁぁぁぁ」というこの世の終わりみたいな泣き声をフェードアウトさせながら、漆うしるはメンタルとタイムのルーム、時空の歪みへと消えていきました。
これが、我々が彼を見る最後なのかもしれません。
高校への通学路に空いた異空間への歪みを前に、展開に付いていけない女の子がふたり。
「検索によると……。現実での一分間が、向こうでは六時間らしいわ」
「二分くらい前に入って行ったから……、アイツはもう、ユキと半日以上も……!?」
「……考えないようにするわよ。こっちの健康に悪いわ。とにかく今は、あいつらを待ってるしかないんだし」
「そうね! ユキに乱入される恐怖がない今を楽しみましょう」
おお、鮮やかに切り捨てられました。
風子ちゃんとシャルちゃん、女の子ふたりでリムジンに乗り込んだけど、中で待つのかな。
お金持ちのリムジンなら、お茶やお菓子なんぞ常備してることでしょうし。気が利く執事さんもいますし。
ヒダマルも付いて行きたいけど、ユキさんに妬まれそうなので遠慮しますかね。彼女たちの駄弁りを描写する女子力ないしな!
その⑥
一時間後。
何かを成し遂げた顔のユキさんと、乾燥ワカメみたいんなった漆うしるさんが、時空の歪みからまろび出てきました。生きてると信じたい。
「炎上案件……。悪夢の六重派遣……」
死んだ魚の目に映ったビー玉みたいに生気のない瞳でアスファルトに突っ伏し、ぶつぶつ呟いております。聞いたら呪われそうです。
リムジンから降りた風子ちゃんとシャルちゃんが、おそるおそる近づきます。
「永遠の就活生……。常時リストラ要員……。世紀末の人売りIT……。終電という概念のない凄絶な世界……。うふふふふふ……」
「ちょっとうしる? アンタ大丈夫……?」
「ふぅ……。当時に匹敵するほどに心身を追い詰めるのは、流石の私でも骨が折れました。IT土方、伊達に闇の商売ではありませんね……」
「爽やかな朝日を浴びる時の笑顔やめろ!」
「ユキと360時間も一緒にいて、拷問に耐え続けるなんて……! わ、私には想像もできない……っ!」
「シャルちゃん……? 私、二週間もシャルちゃんと離れ離れになって、シャネルギーが不足していますの……」
「なによその気持ちわるい造語は!」
「次は一緒に一時間、たっぷり楽しみましょうね……?」
「冗談じゃないわ! 助けて風子!」
「納期にかけた生活ぅ~……♪ でも、みんな目が死んでるぅ~……♪」
「ユキ、こいつ息してない! ユキー!?」
てんやわんやありつつ、ユキさんによる尋問の成果が発表されますよ。
漆うしるの闇から生まれた魔法生物・ウルシオールの願いとは一体……。
「元IT土方の供述により、ウルシオールの目的地が判明しました。それは……」
「「それは……?」」
ユキさんは、南の空へ目を向け、
「……大阪です」
決戦の地の名を、口にしました。
あとがき。
疲労のあまり幼児退行した漆うしるの運命や如何に!!
大阪へ赴いた一行が見たものは!!
ヘルメットおじさん・ウルシオールの目的とは!?
はたして、彼女たちはウルシオールを捕獲することが出来るのか!?
次回、ファン小説『魔法少女うしるん ~ウルシオールの願い~』、完結!!